自社株買い・増資の簡単な説明
こんにちは。さくたろう です。
今回は「自社株買い」と、おおよそそれに対義する「増資」についての考察と、個人的な考えを述べようと思います。
まずは自社株買いの簡単な説明から。
企業は株式市場に上場し、自社の株を発行し市場に供給する代わりに、その分の資金を手にし、企業活動をしていく。
自社の株を市場に供給している。
そのいったん市場に供給したはずの株の一部を、自分の会社で買う(買い戻す)こと、これが自社株買いだ。
英語では自社株買いのことを「buy back」と言う。「買い戻す」と直訳できる。
英語のbuy backの方が、意味合いとしてわかりやすいように感じる。
次に、増資の簡単な説明をしたい。(増資の種類はここでは割愛させてください)
資本を増やすと言う言葉の通りで、資本とは株を発行して手にした資金のことだ。
企業は上場した時に、株を供給し資金を手にするわけだが、それと同じ原理で、上場後にも追加で株を発行し、お金を調達する手段がある。
それが増資だ。
企業は銀行から借金をしたり、社債を発行できる他、新たに株を発行する(増資する)ことで、お金を工面すると言う手段を持つ。
しかも、株を新たに発行する増資は、借金や負債とは違う。
返済という概念が基本的にないことが最大のメリットといえる。
増加傾向の自社株買い
日本企業が去年2020年に実施した自社株買いは約4兆4000億。
そしてここ10年間の累計では約44兆2000億円にものぼる。ものすごい金額だ。
これに対し同期間での増資(公募増資)は約25兆(金融情報会社リフィニティブ調べ)。
このように単純に自社株買いと増資を比べると、自社株買いの方が規模が大きい。
(IPO等、株が増える他の条件はとりあえず考慮せず)
何故自社株買いが増資と比べ人気かというと、自社株買いは、シンプルに株価を上げる効果が大きいから、投資家に好感される行為であるからだ。
市場に売られている株を自分で(自社で)買うので、単純にいえば買われるだけ株は上がっていくことになる。
さらに良いことに、買った株を後から企業が市場で売るという可能性は低い。
すると市場に出回っている株の数も、自社株買い前よりも引き締まり(減り)、その後の株価上昇が、以前と比べると容易になる。
まだ良いことはある。
自社株買いした企業は、買った株をなくす(償却する)ことができる。
他の一株当たりの価値や稼ぐ利益が上がるので、数字上も投資家にとっては有利だ。
これを喜ばない買い手側の投資家は基本的にはいないだろう。
とにかく手っ取り早く株価を上げるには良い手段と言える。
一方で、増資は、増資前からその企業に投資している投資家からは基本的に不人気だ。
効果としては自社株買いの全く逆のものと考えると早い。
何らかの形で資本(お金)が必要となった企業は株を新たに発行して市場にばら撒き、その分のお金を手に入れる。
するとその新しい株は市場で「売り」に出されているため、売られれば株価は基本的に下がる。
株の数も以前より多くなり、仮に以前と同じだけの買いがその後に入ったとしても、以前と同じだけ株価が上がることは難しい。
株の数も多くなっているため、数字上も一株当たりの価値や、稼ぐ利益も減る。
一見すると良いことは一つもないように思えてしまう。
自社株買いにデメリットはないのか?
自社株買いは短期ではやはり投資家にとって有利だ。上記した通りだ。
しかしリスクは全ての投資行為や事象に存在するはずだ。
以下にデメリットを考察してみる。
・企業は少なくとも自社株買いのために多額のお金を使用している。場合によっては自社株買いのために借金をして行う。
・企業の資本(お金)が減ることになるので、不慮のショック時の耐性が落ちる。
・自社株買いも当然に投資行為であり、高い値段で株を買い戻してしまう可能性がある。
・自社株買いでかかるお金を、他に使った方が、効果が高いような投資先が存在した時。
・上記の逆説的にはなるが、投資家サイドから見ると、「もう他にお金の使い道がない」と会社が判断しているシグナルと映る可能性がある。
・何よりも怖いのは、あの大恐慌前に多く見られた事象、それこそが企業による多額の自社株買いであった。
こう羅列してみると、デメリットはその後、相当の期間が経過し、予期せぬトラブルや危機に見舞われた時や、もっと良い投資先・買収先が急に現れた時に、「しまった!」となる可能性があると考えることができそうだ。
また個人的に漠然と感じるのが、その企業は資金を調達するために上場しているはずだ。
自社株買いはその上場の目的をわかりづらくする行為なのかな?と感じることがある。
増資にメリットはないのか?
もはや嫌われ者の増資。事実増資後に株価が急落するさまを何度も何度も見てきた。
特にリーマンショック後は、名門企業・大企業が増資を繰り返していた。
当時僕は「こんなに株を発行したらもう一生この株が上がらないんじゃないか」と感じていた。
しかし、長い目でみると、増資によって危機を乗り切り、後からその企業のチャートを見てみると、増資をしたタイミングで大きな出来高となり、株価の底入れが増資によってもたらされているものが多い。
「底値圏の大出来高は買い」と良く言われる通りとなっていた。
危機時の増資の他にも、新たなチャレンジのために資金が必要となって増資をした場合も、結果長期的にみた場合、増資が正解となっているケースもある。
増資が趣味のようになってしまっている企業の増資は当然避けるべきだ。
しかし目的のある企業のここぞというタイミングの増資は、応援するタイミングである可能性が十分にある。
(これが僕の、増資の考察の結論となる。)
自社株買いの長期的なデメリットも意識したい
自社株買いは当然ポジティブなことだと思う。事実当面株価も上がることが多い。
何より株価を意識した経営陣の姿勢は、その株を購入した投資家を結果的にケアしていることとなる。
何もしない経営陣よりも、行動をしている経営陣を個人的にも支持したい。
一方で、自社株買いが万能な行動ではないことも念頭におきたい。
何より僕が一番気掛かりなのが、1929年の大恐慌前に流行したのがこの自社株買いだったという事実だ。
「大暴落1929」の著者ジョン・K・ガルブレイスは以下のように記している。
「当時、企業も個人も手っ取り早く儲けたいと思うようになっていた」
自社株買いは、手っ取り早く株価を上げ、投資家の儲けにつながりやすい。
そしてそれが格差を助長させ、格差是正への宿命とも言える恐慌を呼び起こす・・
ここまでいくと、流石に僕の考えすぎかも知れないが、恐慌前に自社株買いが目立ったという事実を忘れないでいることには、一定の価値があるかも知れない。
誰が買うにしても、株を買う際には高いお金がいるし、株を買う以上、リスクは必ず存在する。
この事実に変わりはないのだから。